アイデア泥棒 - それはイノベーションの芽を摘む

こんにちはuzakadeuです。


今回の内容は事実でないかも知れません。なので、「〜ありました」という部分は「〜あったとします」と置き換えて下さい。




とあるメーカーから「難しい技術課題で悩んでいる」と相談がありました。話を聞くと確かに大変ですが、何とかなりそうです。「ここは技術力の見せ所」と一週間くらい無理して提案・見積もりを作り上げました。まだ設計とは言えない段階ですが、あとは着実に作業を進めればそんなに苦労しないでしょう。

この提案・見積もりをメーカー担当者に説明をしたところ、内容を評価してくれて「今期の予算は厳しいですが、必要なものがあればお金をかき集めてでもやります。この件は上層部に上げます」と言ってくれました。

しばらく連絡を待っていましたが、前述の担当者からは「上層部で検討中です」との返事が続きます。ちょっと今回は無理かな、と思っていました。


さらに時間が経ったある日、前述の担当者から「例の件、グループ会社に人が余っているので、製造・評価はグループ会社に発注したい。御社には設計書作成までをお願いしたい」という連絡がありました。

正直なところ、エース級人材が設計書を作成するので単価は高いのですが、時間はあまりかかりません。つまり契約金額も微々たるものです。製造以降を受注できないのなら受注するメリットがありません。

メーカー担当者へ率直に事情を伝えて話を断りました。


するとそのメーカー担当者が「じゃあ、あの提案書をグループ会社へ渡して設計以降をやって貰います。構いませんか?」と聞いてきました。私は耳を疑いました。そんなことをやられたら商売上がったりです。

丁寧に、あの提案内容もうちの商品であり、対価なしでは提供できないことを説明しました。メーカー担当者も自分の言った事が『アイデア泥棒』であることに気づいたようです。


その後いろいろあって、結果的に提案書はお金になりました。




さてこの例では、メーカー担当者がアイデアを盗用する前に私に確認してくれ、私が拒んだので、話がこじれませんでした。でも、もしメーカー担当者が確認してくれなかったら、あるいは営業や若い部下が深く考えずに許可していたら、と思うといろいろ考えさせられます。
このメーカー担当者は誠実でとても優秀な人です。その彼/彼女にして、アイデア盗用にあたるとは思い至らなかったのです。彼/彼女に悪気はまったくなかったと思います。


形がないので分かり難いですが、アイデアは対価を持って取引されるべき商品です。対価を払わずに無断で使用すればそれは泥棒です。でも啓蒙しなければ誰もそれが泥棒とは思わないでしょう。
日本中がアイデアの価値に無理解であれば、アイデアを売る仕事、つまりイノベーションは起き難くなると思います。

よいアイデアがなければいかに金貨の袋を抱いていても、時代のバスに乗り遅れて敗残者となるのである。(略)時代の急激な進歩は、事業経営における資本とアイデアの重要度を逆転させた。

本田宗一郎氏『俺の考え』 ー


バブル以降の20年、閉塞感ただよう日本。まずはアイデアイノベーションに対する啓蒙から始めてはいかがでしょうか?